(2024/9/3修正)
今回は、ハイポネックスなどを含む園芸用液肥について書いてみたいと思います。
園芸用の液肥は何せ安価。さらに、成分表示もあるので安全な気もして、ついつい利用したくなりませんか?
しかし、はっきり言いって、濃度計算できない人は手を出さない方が身のためです。
これについて、この記事で詳しく解説していきたいと思います。
話が変わりまして、肥料と簡単に言いますが、実は「薬」と同じように法律で事細かに条件が定められており、パスしたものだけが「肥料」と名乗れる仕組みとなっています。
では、そうでないのはすべて効果のないニセモノ?
いえ、そんなことは断じてありません!
というわけで、本文へと入っていきたいと思います。
なお、当記事で紹介する物品は全て自費で購入したものです。
I. 園芸用液肥を水槽で利用することについて考えてみる
まずは園芸用液肥とアクア用液肥の違いについて述べてみたいと思います。まずは、「肥料」とはいったい何なのか? これについて話していきます。
肥料ってなんぞや?
肥料とサプリメントの違い
肥料とは何でしょうか?
水草用の液肥には成分が表示されていませんが、園芸用の液肥には成分が表示されていますよね? これらの違いは、肥料は「肥料取締法」によって定められているからです。
この法律のもと、肥料として販売するには含有成分を記さなくてはならないのです。結果的に、買う立場からすれば成分表示があるものは「肥料」であり、それがないものは、いわゆる「サプリメント」ということになります。
例その1:ハイポネックス観葉植物用
では、法律上「肥料」であるハイポネックス観葉用と、そうではない水草用カリウム溶液であるゼニスウォーターK-19について、その外見上の違いを比べてみましょう。
まずは、前者。
ハイポネックス観葉植物用:表面 |
前面拡大 |
赤〇内に水でうすめる液体肥料
と、肥料という文言が使われているのがお分かりいただけるかと思います。
例その2:ゼニスウォーターK-19
では、後者はどうでしょうか?
前面 |
裏面 |
注意書きや能書きなど、ボトルのどこを探しても「肥料」という単語は見当たりません。しかし、下の画像では読みづらいのですが、匂わす表現は多々見受けられます。
例えば、「水草のカリウム補給液」のように、ぼかしの利いた言葉遣いとなっています。
これは言い換えれば、法律上肥料ではないので、はっきりと「肥料」と名乗れないためです。
なお、中身には10%炭酸カリウムが含まれているので、水草にも十分に効果があることを明記しておきます。
「肥料」と名乗らない理由
なぜ、肥料と名乗るものとそうでないものがあるのでしょうか?
ここからはあくまでもわたしの推測です。
まず、肥料を名乗るのであれば成分を表示しなくてはいけません。となれば、類似品が増えて自社の商品価値が薄まることが考えられます。とはいえ、植物にどの栄養素がどの比率で効果があるかなんて知れたことです。
そこで、もう1つ考えられるのが、手続き上の手間や時間、さらに費用を省くため、あえて名乗っていないことです。国が法律で管理しているため、申請が煩雑なため、中身以上にコストがかかることが推測できるからです。そのような経緯が、明記するものとしないものの差となっていると思われます。
なお、それ以外にも、肥料取締法では成分を指定しており、それから漏れたものしか入っていない、例えば鉄分サプリメントなどのようなパターンも考えられます。もっともこの場合は、初めから肥料と名乗れません。
さて、肥料として販売されている園芸用の液体肥料と、法律上は肥料ではないアクア用の液体肥料、どちらを使うべきなのでしょうか?
水草用の液肥が使いやすい理由
アクアリウムで使用するのなら、アクア用液肥の方が断然おすすめです。
確かに、肥料には成分が表示されていますが、してある「だけ」とも言えるからです。現に濃度計算をすると浮かび上がってくるのは、あくまで園芸用であり、用途や栄養素に対する考え方がまるで違うということです。
例えば、今回紹介するハイポネックス観葉植物用にはアンモニア態窒素(後述)が含まれています。これは植物にとってすぐに吸収できる養分ですが、魚には有毒であり望ましいものではありません。
それに対して、ゼニスウォーターK-19は法律上肥料ではないので成分は表示されていませんが、アクアリウムで利用することを考慮したもの。基本的には魚の毒となるようなものは入っていない、もしくはその影響は最小限にとどめるものがほとんどなはずです。そう断言できるのは、仮にそのようなものが含まれていたら……アクアリストなら、すぐにどうなるかわかりますよね?
なぜこのような差が生まれるのか?
それは、対象の違いによるものです。そもそも肥料取締法は農業や食において人や作物への安全を保証する側面があり、残念ながら魚はその範疇に入っていません。
以上を理由として、わたしは水草用の液肥の利用を強くおすすめしているのです。
背景を理解した上で、「肥料」と表記された意味を考えなくてはいけませんね。
II. 園芸用肥料を理解し実水槽に添加してみる
このパートからは、現実の水槽で利用してみた際の話をしていきたいと思います。
その一連の流れの中で最も大切なのは……
肥料の成分とその濃度計算です。
もし、アンモニアが含まれているのなら、影響のない濃度になるまで希釈しなければ、大変危険な状況となります。魚の命を預かっているので、間違っても感覚で添加などしてはいけません。
以下より、園芸肥料にどの成分がどれだけ入っているか計算していきたいと思います。
注意事項
注意事項となります。
文中でも触れていますが、
園芸用肥料にはアンモニアが含まれていることがあります。
それらを流用する際は、必ず自己の責任のもと実施してください。
目の前の魚が苦しみ始めても、救えるのは「水槽の前にいる」あなただけなのです。
N-P-Kの意味
肥料に書かれている数字の羅列は何を示しているの?
さて、ハイポネックス観葉植物用には7-4-4と数字が書いてあります。何を意味しているのでしょうか?
これは、100gあたり保証されている成分量を、N-P-Kの順に示しています。
つまり、窒素分は7g/100ml、リンは4g/100ml、カリウムは4g/100mlということになります。(1g=100mlとした場合)
よく、15-15-15と8-8-8の肥料を、「計算して全部1-1-1、だから同じ肥料なんだ!」と勘違いされている人がいますが、それは大きな間違いです。ここでのポイントは、この数字の羅列は、各成分間の比ではなく、数の大きさだということです。
15-15-15と8-8-8の肥料は何が違うの?
なぜ、数字の大きさなのか?
勘の良い人なら気が付いていると思います。さらに言えば、なぜ計算のしやすい1kgあたりの量ではなく100gあたりの量であるのか、もうお分かりかもしれません。
以降の濃度計算の大切な部分ですので、ここでは少しゆっくりと説明していきます。
例えば、ハイポネックス観葉植物用に記された割合は7-4-4。これを以下のように書き直してみます。
7 - 4 - 4
→7(g/100ml) - 4(g/100ml) - 4(g/100ml) (単位を付けて)
→7(%) - 4(%) - 4(%) (1g=100mlとすると)
もうわかりましたよね? そう、百分率(%)です。
というわけで、実は一見計算のしやすい1kgあたりの量ではなく、それよりもさらに身近な表現で濃度を記してあるというわけです。
では、ここで、15-15-15の肥料と8-8-8の肥料の違いについて考えてみましょう。
双方とも計算すれば1-1-1の同比率になり、一見同じものに思えてしまいがちです。
しかし、先ほども述べた通り、この数字の羅列のポイントは数の大きさであり、そして、百分率だということです。つまり、前者は15%、後者は8%であり、含まれている成分量が2倍も違うことになります。各N-P-K間の「比率」こそ同じですが、濃度が大きく異なるのです。
植物は根から栄養分を吸収する生き物ですが、陸上植物に施肥する際は濃度に注意を払います。浸透圧による「肥料焼け」が起きるからです。
そのため「計算して全部1-1-1だから同じ!」というわけにはいかないのです。
園芸用肥料転用の是非ついて意識してみる
ハイポネックス観葉植物用に含まれる成分は?
理屈は分かった上で、ボトル裏面を見てみましょう。
7-4-4と書いてありますね。
さらに、赤〇の部分、窒素全量7.00の下に「内アンモニア性窒素2.35、硝酸性2.15」と記されています。
堂々と有毒な「アンモニア」性窒素と記されているので、アクアリストなら誰しも驚くかもしれません。
詳しくは後述しますが、アンモニア性窒素はアンモニア態窒素とも言い、硝酸性窒素は硝酸態窒素とも言います。今回の説明では「~態窒素」と表記しています。
つまり、カリウムを4添加すれば、アンモニアも2.35一緒に水槽内に入ることを意味します。以下の計算において安全な範囲に収まるような希釈倍率を濃度計算で探ることになります。
そして、最終的には安全な濃度であるときに添加できるカリウムの濃度とその妥当性について考えていきたいと思います。
ハイポネックス開花促進用に含まれる成分は?
次は、よく話題に上がるハイポネックス開花促進について述べていきます。
アクアリスト御用達の園芸肥料と言えば、これが真っ先に挙げられるでしょう。そのN-P-Kは「0-6-4」。
アンモニアどころか硝酸も入っていませんから、魚に危害は及びません。つまり、安心して添加できます。これこそ、アクア用液肥の対抗馬として同肥料が挙げられる理由です。
しかし、これはわたしの持論なのですが、カリウムを補うためにこの肥料を添加すると、黒ひげの原因として嫌疑がかけられているリンも一緒に添加されてしまうことになり、そのさじ加減の難しさを推し量ることができます。
具体的には、カリウムを「4」入れたらリンも「6」一緒に入るわけです。一歩間違ったら水草の生長促進ではなくコケだらけに……そんな事態がアクア歴10年以上のわたしには垣間見えるわけです。
いかに窒素分がなくとも、安直な添加はおすすめできるものではありません。
どうして安いカリウム肥料が欲しいのなら、チャームで販売されている粉末の炭酸カリウムがおすすめです。
(炭酸カリウム粉末。100gで350円也) |
なお、記事の最終部では、この肥料についても妥当性を考えてみたいと思います。
添加するために園芸用肥料を濃度計算してみる
ここからは、人によっては本当に頭が痛くなる濃度計算となります。
今回は、ハイポネックス観葉植物用でカリウムを施肥してみようと思います。繰り返しますが、これにはアンモニアという毒が含まれているため、安全な濃度に収まるように希釈する必要があります。
アンモニア態窒素とは? 総アンモニア濃度が害を及ぼす濃度とは?
アンモニア態窒素とは、読んで字のごとく、アンモニアの態をした窒素ということです。
つまり、アンモニアもしくはアンモニウムのことです。確かに魚には有毒ですが、植物にはこれを直接吸収できる種もありますから、肥料としてそれらのために含まれているのです。
当然、添加量を間違えると大惨事になりますので、その濃度について考えてみましょう。
さて、アクアリウムでは一般的には「アンモニア」と言われていますが、実際には毒性の高い遊離アンモニア(NH3)と、それと比べると毒性の高くないアンモニウムイオン(NH4+)が存在します。双方は、二酸化炭素(CO2)と炭酸水素イオン(HCO3-)と同じような関係で、pH次第でその存在比率が変わります。
しかし、それぞれ別々に呼んで毒性について語っては何かと面倒なので、「総アンモニア濃度」とまとめて扱われています。一般的には総アンモニア濃度が0.25mg/L以上では魚に対して何らかの悪影響があり、3mg/L以上では致命的なダメージを与えると言われています。さらに、濃度が40mg/Lで魚は即死に至るようです。この数値は後々使うので頭の片隅に置いておいてください。
言い換えれば、水槽に添加する際、上記の数値に引っかからないように希釈できれば流用できるということになります。
単位を読み解く
ここでは、有毒なアンモニア態窒素に的を絞って、計算をしてみたいと思います。それが分かれば、おのずと一緒に添加できるカリウムの濃度も分かるからです。
まずは、ボトル裏側を見ます。この肥料の裏面表記には窒素分「7」のうちアンモニア態窒素は2.35と記されており、これは百分率ですから、先ほどとは逆に単位を変えると……
2.35(%) → 2.35g/100g → 2.35g/100ml
(1g=1mlとして)
となります。これに少し手心を加えてみます。
2.35g/100ml → 23.5g/L → 23500mg/L
(分母分子を10倍して、単位を直しました。)
総アンモニア濃度が40mg/Lで即死ですから、とてつもない濃さだということが分かります。
物は試し。これを20倍に希釈したハイポネックス観葉植物用を10Lの水槽に添加することについて考えてみましょう。
※2.35g/100mlという数字を後のパートで使うので、こちらも頭の片隅に置いておいてください。
濃度計算して10Lの水槽に添加してみる
なぜ20倍なのか?
というメタ的な話はともかく、ここからは本格的な濃度計算となります。
なお、液肥なので当然ながら液体ですので、便宜的に1g=1mlとして計算したいと思います。
先にも挙げたように、アンモニア態窒素の濃度は2.35g/100ml。
これを1mlあたりの量に換算すると……
2.35g/100ml → 0.0235g/ml →23.5mg/ml
(分母分子を1/100して単位を変えました。)
これは1mlあたり23.5mgの総アンモニアが含まれていることを意味しています。
今回は、この液肥を20倍に希釈してから、10Lの水槽(睡蓮鉢)に添加します。
まずは、20倍に希釈する計算をしてみます。
23.5mg/mlを20倍希釈 → 23.5mg/ml ÷ 20
→ 1.175mg/ml
となります。
一見低いように見えますが、40mg/L(0.04mg/ml)で魚は即死ですから、まだまだ危険な濃度だと言えます。
これを1mlとって10Lの水槽に添加しますから、水槽内の最終的な濃度は以下の通りとなります。
1.175mg/ml ÷(1ml+10L) → 1.175mg/10L
→ 0.1175mg/L
(なお、1ml+10L≒10Lとしています)
結果、大まかに言えば、20倍に希釈したハイポネックス観葉植物用1mlを10Lの睡蓮鉢に添加すると0.1mg/Lの濃度になるということです。先ほども述べましたが、魚に何らかの影響が出る総アンモニア濃度が0.25mg/Lですから、「なんとか使える」ともいえるような濃度になりました。なお、この時同時に添加できるカリウムの添加後の濃度は0.2mg/Lとなります。
とにもかくにも、
こんな計算をして園芸用肥料を入れるぐらいなら、アクアリウム用カリウム液肥を購入した方が、安易で安全だ
、と言えそうです。
(蛇足)炭酸カリウム液肥の濃度と肥料流用の妥当性
以下蛇足です。
計算間違いがあるかもしれません。
問題は、上の計算で求められたカリウムの0.2mg/Lという水槽内の濃度の妥当性です。
ここでは、10%炭酸カリウム水溶液を用いて考えてみます。
一般的には、カリウム液肥などは、この水溶液が用いられており、20Lに対して1mlを添加するよう説明されていることがよくあります。これを紐解いて、水槽内でどれくらいの濃度になっているのか計算してみましょう。
まず、10%炭酸カリウム水溶液とは、文字通り100gの水の中に10gの10%炭酸カリウムが入っていることになりますから、これを式にして単位を整えると以下のようになります。
※ 1g=1mlとして
10(%) → 10g/100ml → 0.1g/ml → 100mg/ml
(分母分子を1/100にしてgをmgに直す)
これを1mlとり、20Lの水槽に加えるので……
100mg/ml ÷(1ml+20L) → 100mg/20L
(なお、1ml+20L≒20Lとしています)
100mg/20L → 5mg/L
(分母分子を1/20)
というわけで、水槽内での最終的な濃度は5mg/Lとなります。
実際に5mgとはK+(カリウムイオン)ではなくK2CO3(炭酸カリウム)のことです。その全体の分子量は138で、Kは2つありますから39×2=78、つまりおおよそ半分の重さがK+ということが言えます。全て電離したとすれば、約2.5mg/Lが本当の最終的な濃度となります。
つまり、いままで計算してきた20倍希釈の園芸用肥料とは1桁濃度が違うということになります。
仮に、今回計算した20倍希釈のハイポネックス観葉植物用をアンモニア中毒が起きるギリギリの濃度となるよう希釈したとしても、その時のカリウムの水槽内での濃度は0.4mg/Lであり、低すぎると言えます。
また、ハイポネックス開花促進用についても考えれば、同等のカリウム濃度を求め添加すれば、
こちらはリンが高濃度となるため、
いばらの道になることは必至です。
以上の現実を踏まえると、アンモニアやリンが入っている園芸用肥料をアクアリウムで利用するというのは、現実的には厳しいと言えるでしょう。
結論:液肥はアクアリウム用がベスト
そのような理由があるため、園芸用液肥を無計画に添加するのはお勧めできません。やはり、多少高くても、成分が表示されていなくても、
安全なアクアリウム用を利用することをお勧めします。
繰り返しますが、粉状の炭酸カリウムを溶かして使う500円程度のものもあります。
安価なものが欲しければ、そちらが良いでしょう。
ハイポネックスから安く水草用や睡蓮鉢用の肥料が出たら流行ると思うんですが……。
というわけで、園芸用肥料の話はここまで。
長文読んでいただきありがとうございました。
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