ヘアーグラスの成功のための4つのポイント
(2024/10/31 編纂・修正)
今回は、ヘアーグラス栽培において、押さえておきたい4つのポイントを述べたいと思います。
ポイント①:高光量
前景草として利用されることからわかるように、ヘアーグラスは高さ10cmにも満たない大変草丈の低い水草です。これを水槽の中に当てはめれば、最もライトの光が弱い場所を住環境とする植物だと言えるでしょう。これこそ、この水草が難しいと言われる根本的な原因の1つです。
このように懸念するには理由があります。「明るさは距離の2乗に反比例する」というルールがあるからです。細かい話はさておき、たった30cm程度水深が深いだけでも光の法則や水草の影などにより思いのほかライトの光は弱くなるようで、コケが出るほど明るくても前景草がなかなか育たないという事例はネット上に山ほど転がっていますし、わたしも過去に経験したことがあります。そのため、それらに配慮しつつ可能な限り強い光を当てたいところです。
一般的に、ヘアーグラス栽培に必要な光量は、60cm水槽において20W直管蛍光灯3本といわれていますが、LEDが普及し、波長とlm(ルーメン)を重視する現在においては、そう言われてもなかなかピンときません。ざっくりとですがWをlmに変換すると、水草用で名の知られている20W直管蛍光灯(ビオルックHG)は1本あたり800lmであるため、これが3本必要となれば、60cm規格水槽で2400lmがヘアーグラス栽培に必要な光量だと言えるでしょう。
廉価な60cm水草用LEDは1機あたり1000lm程度ですから、ヘアーグラスを栽培するためには最低でも2台必要で、3台あれば条件を満たせることになります。しかし、何も考えずにライト3台を乗せれば、給餌や清掃などの作業性が著しく悪化するため、創意工夫やワンランク上のライトを購入する必要に迫られるかもしれません。
ポイント②:CO2の添加
先に述べた通り、ヘアーグラスは水槽内部で最も暗くなりやすい場所を住処とする水草です。限られた光を効果的に利用させ、生長を促進するには二酸化炭素の添加が非常に有効です。
これは植物の光合成が酵素反応で行われているためで、基質である二酸化炭素が酵素の飽和濃度に達するまでは反応速度が上昇するからです。高校では「光合成速度」として、高等教育では「酵素反応速度論」として、広く一般に知られている話です。
このようなバックボーンがある二酸化炭素の添加ですが、これには弱酸性の飼育水が必要不可欠です。その理由は、3段構えのメカニズムとなっています。
① 二酸化炭素が水に溶けると二酸化炭素、炭酸水素イオン、炭酸イオンの平衡状態となります。
② この状態は、pHが高いほど炭酸水素イオンや炭酸イオンが増え、低いほど二酸化炭素が増える状態です。
③ これらの炭素源を光合成の反応回路に取り入れる役割をするのは、Rubiscoという酵素であり、CO2とのみ反応する基質特異性を持っています。
そのために、水草栽培では積極的にソイルを利用し、少しでも使える炭素源を増やそうと水質を弱酸性に傾けているのです。水素イオン濃度が大きな決め手となっていることが、なんとなくでもお分かりいただけたでしょうか。
とにもかくにも、光から遠いというハンディキャップを補い、光合成が順調に進むような環境を作るのが、わたしたちの役目だと言えるでしょう。
ポイント③:底床の養分が豊かであること
ひとえに水草と言っても、養分の吸収方法はさまざまです。古くから水草には、水から直接養分を吸収するのが得意な種類から、土が吸着したものしか養分を吸収できない種類まで、私たちアクアリストは体感的に知っています。
そのため、作用が即効なのか緩効なのかという違いもありますが、肥料には水に添加するものとソイルに施すものがあります。多くの水草は液肥で十分な場合がほとんどですが、土からの吸収が得意なものにおいては効果が薄く、しかしながら固形肥料の効能の遅さも相まって、肥料投入のタイミングを把握するのは難しいことが多いです。
残念ながら、ヘアーグラスはどちらかと言えば後者に含まれる水草であり、田んぼなどに自生していることから明らかなように、肥沃な土地を好むようです。また、悪いことに生長すると底床を覆いつくすように葉が密に生い茂り、固形肥料ですら挿入にひと手間がかかるようになります。そのため、栄養系のソイルの利用や、吸着系のソイルならイニシャルスティックなどをあらかじめ施しておくことをおすすめします。
量については、多すぎれば根張りが弱くなったり、コケが出やすくなるなどのデメリットが大きいため、規定量から少々減らした量からスタートしましょう。
ポイント④:淡水エビの利用
水草において、黒ひげ苔の好発位とはどこでしょうか?
それは、葉の外縁部です。このような場所は水流の境界線であり、水の流れを強く好む黒ひげ苔にとって根付きやすい有機物であることも相まって、格好のターゲットとなります。そして、ヘアーグラスは尖った針状の葉を有しています。これは見方を変えれば葉全体が外縁部だと言える構造であるため、水流の境界が生まれやすい水草となっています。そのため、極めて黒ひげ苔に標的にされやすい水草だと言えるでしょう。
現に、痛み始めた水上葉や、鋭く尖った葉の先端、さらには調子を大きく崩したときなどは、あっという間に苔に埋め尽くされ、見るも絶えない黒色の塊となります。これを防ぐにはやはり日頃からメンテナンスが大切で、なるべくなら24時間生活をともにしてくれるコケ取り生体の利用がおすすめです。最も適性があるのは、ミナミヌマエビやヤマトヌマエビなどの淡水エビで、爪楊枝より細い葉もなんのその、両手で両脚で水草に取りつき、継続的にゴミや苔の種を食べてくれます。もちろん、濃度の調節が難しいですが、木酢液を使えば鈴なりにエビが実るヘアーグラスが観察できるでしょう。
高光量、二酸化炭素添加、底床肥料など、苔が繁殖しやすい環境を好む水草であるため、淡水エビの利用の有無にかかわらず、成長速度や調子については常に把握しておきたいものです。
というわけで、今回はここまで。
長文読んでいただきありがとうございました。
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