牧野植物園へ!
季節は秋から冬に向け、足音を立てて動き出しましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
こんにちは。ごん太です。
さて、前回は……
ポータブル電源で、短時間の停電を乗り切った時のお話をしました。
今回はちょっと話をアクアリウムから逸らし、
高知県立牧野植物園に行ってきましたので、
園内の写真を交えつつ旅行記を綴っていきたいと思います。
一度は牧野植物園へ! と学んだ青春の思い出
さて、高知県の偉人と言えば誰でしょう?
坂本龍馬!!
いやいや、四国全土を征服した長宗我部元親?
自由民権運動の板垣退助?
戦後初の内閣総理大臣、吉田茂?
実にたくさんの偉人と呼ばれる方々が高知県出身ですね。しかき、やはり水草アクアを、いえ植物に関わる趣味を嗜むのならば、まずこの人の名前を必ず最初にあげるべきでしょう。
牧野富太郎博士!!
日本の植物分類学の父とも言える人物で、1500種類以上の植物を発見・命名した偉人です。さらに、一つ一つの植物の生長ステップを鋭く観察し、繊細なタッチで描きとめた牧野式植物図を作り出した植物画家でもあります。
亡くなって70年以上経ちますが、現在も牧野式の植物図鑑はまだまだ現役、……というよりむしろ聖書。わたしが学生の時代には多くの同級生が愛用しており、今も本屋に行けば必ずはその名が付いた図鑑が置いてあるはずです。もちろん、植物関係の学科に在学したことがある人なら、一度は授業で取り上げるであろう有名人物で、当然わたしの人生初の大学での講義は、牧野博士と高知県立牧野植物園のお話でした。
「若いのなら一度は牧野植物園へ!」
と、講義が終わったのをいまでも鮮明に覚えています。そう締めくくった教授は、博士最後のお弟子さんであると知って驚いたこともあり、若人の脳裏にその植物園の名前は深く刻まれたのでした。
そうは言っても、いつの時代の学生も、時間はあれどお金がない。牧野植物園は高知県にあり、わたしの暮らしている地域から、おいそれと行けそうにありません。
そして、それから十数年。
幾度となく計画を立てては断念してきましたが、ついに念願を叶えることができました。
次のパートから、園内を写真で紹介していきたいと思います。
やってきました牧野植物園!
正門から植物園は始まっている
そんなこんなで、遥々何百キロの道のりを越え、とうとう高知県までやってきました。目指す牧野植物園は、高知県高知市の五台山という標高146mの小高い山の中にあります。徒歩でも一応は行けますが、MY遊バスという日券制の周遊バスで移動したほうが明らかに便利でしょう。
五台山までなら一日600円、桂浜までなら一日1000円で利用できます。高知市内の路面電車が利用でき、さらに様々な観光施設の入館料が安くなる特典もついています。
公共交通機関を利用して観光で来ているなら、使わない手はありません。
そんなMY遊バスで龍馬像を撮影した桂浜から揺られること30分。
冒頭でも紹介したこちら「正門」へとたどり着きました。
門の横には大きな地図。その広大さはいまいちピンときません。
この牧野植物園の大きさは8ha。東京ドーム2個弱分の広さとなります。
実際には、山の谷あいに作られており、自然の地形を縫うように作られた散策路や、時にはお遍路を利用して園内を移動しますので、それ以上の広さに感じられるでしょう。わたしの場合ですが、早歩きでつぶさに見て回ると3時間程度かかりました。植物に興味が全く無い人でも、全て見学するのに、おそらく1時間以上かかるでしょう。それほど広大な植物園となっています。
なにはともあれ、まずはチケットを売っている本館を目指し、正門から奥へと進んでいきます。そこは既に、土佐の植物生態園と名付けられた展示エリアとなっており、ちょっとだけタダで見れるスポットとなっています。園の玄関ともいえるゾーンですので、とても丁寧な手入れがされており、真夏だというのに実に様々な野草が咲いていました。
――かく言うわたしは、代金を支払っていないエリアまで植物園となっていることに、全く気が付かず……。あぁ、庭木が綺麗だなー程度にしか見ておらず、写真はありません。悪しからず。
通路までも所狭しと
そんなことは露知らず、チケットを購入したわたし。 偶然開催されていたスタンプラリーの冊子をもらい、スタンプのある展示館方面へとそそくさと向かいます。
※生誕160年記念スタンプラリーは現在終了しています。
しかし、そこはやはり牧野博士の名前が付いている植物園。
散策路にまでギッチリと植物が栽培・展示されています。
下の写真は、本館から展示館までの通り道に展示されていた植物達です。
このように私たちの良く知る、ネームプレートスタイルでの説明もあれば、下の写真のように……
野草の横に図鑑をまるっと印刷したプレートでの紹介があったりと、来園者の植物への関心に応えると共に、知的好奇心にも満たすような手の込んだ説明がなされています。
展示館と押し花標本
真夏の高知。南国であるためか園内の気温は既に30℃以上。それでも山の中にあるため時折通り抜けていく風は涼しく、次々と現れる野草たちに目移りしながら道を進んで行くと、「展示館」という場所までやってきました。
ここには高知県や植物図鑑にちなんだ映像作品が上映されるミニシアターや、博士の生涯を写真やゆかりの品々で紹介するスペースが広がっています。
上の写真は押し花標本です。新種や変種など学術的な研究で採取した植物を利用する際、
このような標本を作製し、学術研究の根拠とすることもあります。
丁寧に作れた物は100年以上保存ができるようです。写真とは違い、葉の裏も表や花びらの一枚一枚、さらには雌しべや雄しべまでをつぶさに、いつまでも観察できるのが押し花の利点です。
最近再現された博士の書斎にも、新聞紙に挟まれた押し花が所せましと置いてありました。植物の系統分類を考える上での、基本と言うわけです。
さて、展示館のウッドデッキにあるヒメコウホネを眺めつつ、ここで一端道を外して展示館の裏側へと入っていくことにしました
薬用植物区に遍路道、そして庭園を通り抜け
道を外れ、さらに奥の薬用植物区へ
やってきましたのは薬用植物区。
ここには、薬学をかじったことがある人でもない人でも、誰しも一度は聞いたことがある有用植物が栽培されています。例えばコレ。
このアサガオのような、つるが特徴的な植物。実は「ホップ」なんです。
酒場で必ず頂くであろう、ビールに入っているおなじみのアレです。ポップ増量! なんて単語、お酒好きなら一度は耳にしたことがありますよね?
独特の香りと苦みをビールにもたらし、さらにはきめ細やかで長持ちするあの泡は、実はこのホップのおかげなんです。
そんな酒好きにはなくてはならないホップ。植物の分類として、和名ではセイヨウカラハナソウと呼ばれ、つる性でアサ科の多年草です。花期は7~9月で雌雄異株。受精していない雌株の花がビール造りでは利用されています。 この花にはα酸という有機化合物の一群が含まれており、醸造の過程で加熱するとイソα酸となり、ビール独特の性質をもたらしているのです。
ホップ一つとっても、生活に密接に関わっているのはもちろんのこと、今まで知らなかったであろう化学物質がそこにはあります。上の例ではホップを知り、イソα酸を知り、そしてビールの苦みを知りました。そのようにして知的な欲求に一石二鳥で応えてくれる、それが薬学の楽しみ方の一つでもあります。
さて、牧野植物園の植物区は↓の写真のように緩やかな斜面にあり、奥に向かうに従い下る造りとなっています。
その入口からは、高知市東部~後免町方面が一望できます。
近くには、自販機や休憩スペースもあります。散策の足休めはもちろんのこと、区内に入らなくても景色が一望できます。生物学が好きな人も、化学が好きな人も、そうでないひとも。一度は薬用植物区を訪れみてはいかがでしょうか?
遍路道に寄り道しつつ
道中スタンプラリーのスタンプを集めつつ、温室へと向かいます。
上でも述べた通り、山や谷が丸っと展示スペースな牧野植物園。屋外でしか決して見ることがないであろう豪快なサイズの植物もあります。可憐な野草も大切に展示されている園ですので、双方がコントラストになって、常に私たちの目を楽しませてくれます。
こちらは、トビカズラと呼ばれるつる性のマメ科の植物。
4~5月に紫色で大きくガス臭に似た花をつけるのだとか。わたしの訪れた時期には、手首から肘まであろう長いサヤが、たわわに実っていました。なお、画像はわたしの目線を起点として、上下方向のパノラマで撮影してあります。
つまりは見上げるほどの大きさ。
次いで、石畳の遍路道に道を外し目指すはツブラジイ。こちらも、パノラマ写真でご覧ください。
こちらも仰ぎ見るサイズ。その大きな幹もさることながら、気になるのは体を支える太い根。
板のように平たいこの根っこは、〝板根〟と呼ばれる気根の一種で、地面が浅い場所でもツブラジイの大きな体を支える役割があります。このように、植物の根には栄養の吸収や貯蔵以外にも、様々な機能があるのです。
庭園を通り抜け
ここで、展示館から温室をつなぐ連絡路が、あいにく工事中であったため、庭園を迂回することになりました。そうは言っても、数多くの植物が栽培されていますので、眼福なことこの上ないです。
牧野博士にご挨拶しつつ……
さらに奥に進むと庭園が広がっています。ここは50周年記念庭園と呼ばれる場所で、園芸植物を主として水の流れを利用した水景庭園となっているようです。春にはサクラの花で薄紅色に染まるようですが、夏でも小川のある美しい庭園は清涼感が満載です。
庭園のさらに奥は、先ほどのツブラジイのあった遍路道と繋がっているようで、重厚な石畳が連なり、緑深い谷底ではお地蔵さまが川を見守っています。古くからの八十八か所巡りの舞台である四国らしい、人々の祈りから生まれる厳かな雰囲気がそこにはあります。
温室の中はジャングル?
その温室、二階に登ってもなお見上げるほどの高さ
いよいよやってきたのは温室。
実は上の写真にちゃっかりと写っています。少々拡大してみましょう。
ガラスのパネルで白く輝くスラリと綺麗な輪郭線を有しており、肉眼では大きさを微塵も感じさせません。その温室内の高さは、
熱帯の木々が丸っと収まるほど。まずは出口付近で撮影した一枚をご覧ください。
白い柱がグンと天井に向かって伸びており、その間に樹木が一本納まっています。手前の池に浮かんでいる浮草は両手を広げたぐらいのサイズであるため、遠近感が狂ってしまいその高さがいまいちピンとこないと思います。
ここで話が前後しますが温室見学後、出口付近のエレベーターに乗り2階へ赴いた際の写真をご覧ください。
登った先には、ジャングルのツリーハウスから眺めたような光景が広がっていました。
そのさらに上に位置する天井は、なお見上げるほどの高さ。これが入園料730円の〝その一部〟のコンテンツなのですから、改めて衝撃を受けます。その内部とは……?
ジャングル!!
上の写真は、入口より少し進んだ地点で撮ったものです。
既に空が見えないほどに植物の葉が鬱蒼とひしめき合い、まさしく五台山に突然あらわれた密林感が満載です。
こちらは、順路も終盤を迎えたあたりの一コマ。
石組やコケで作られた滝や小川、さらには重なり合う見慣れない植物たち。真夏の南国の太陽を受け、ムッとした暑さで臨場感は抜群。今にも色鮮やかな野生動物が飛び出してきそうです。
タコ足? タコノキ
手の込んだ展示方法に圧倒されつつ順路を進んでいると、
実に不思議な形状をした根っこを持つ植物が……。
ビヨウタコノキです。
タコノキ科の単子葉類で、パイナップルのようなトゲトゲした実をつけるそうですが、その見どころは何と言っても根です。名前の由来通り、タコの脚のような根っこが幹から生えています。
実はコレ、先ほどのツブラジイと同じく気根の一種で、〝支柱根〟になります。タコノキの他には、ガジュマルやマングローブを構成するヤエヤマヒルギにも見られるもので、その役割は体を支えることです。
なお、同じくマングローブのオヒルギ・メヒルギも同じく気根を持っていますが、オヒルギが持っているのは呼吸根。メヒルギが持っているのは板根。どれも泥濘が多い土地に生えているため体を支えるに、もしくは根のガス交換をするため、特殊な根を持っています。
このビヨウタコノキはマダガスカル原産で、熱帯もしくは亜熱帯の植物。霜を嫌い最低6時間以上の直射日光を好みます。本来は海の近くで良く育ち、耐塩性をもつ植物のようです。常夏の海辺で育つワケですから、
土壌が浅く幹を支えるのに支柱が必要というワケなのでしょう。
アクアなお供? 食虫植物
タコノキを見学し終えると、そのすぐ横から食虫植物の展示が始まります。
※なお、こちらの展示は期間限定のため、現在では終了しているようです。
アクアリウム関係、とりわけテラリウムで良く利用される食虫植物。年中暖かい水槽の水からは、ときおりコバエが湧くことも。しかし、殺虫剤は魚やエビ達に有害。さらには、乳幼児やペットが同居しているため、使用できないもしくは躊躇することが多々あります。
そんな時には食虫植物。水槽の営みで生まれたコバエたちが、そのまま天然のコバエホイホイたる彼らの餌となってくれるわけです。
そのような理由があり、以前よりもメジャーな植物となりつつある彼らですが、やはり植物園となるとそのサイズや量が違います。
まずは、誰もが知っているウツボノカズラ。
はい。ここは本当にジャングルかっ!? と思えるほどに連なっていますね。
ウツボノカズラは東南アジアに分布する、ナデシコ目ウツボノカズラ科のつる性の食虫植物で、上の写真の通り大きな捕虫袋が特徴です。袋のフタからは匂いの元である蜜が分泌されています。この香りにつられて侵入した昆虫は内部の足場に着地しようとします。しかし、そこはツルツルとしており蜜に辿り着いたとしても、やがて足を滑らせ奥へと転落していきます。
そして、落ちた先には酸性の液体と消化酵素が溜まっており、昆虫たちは溶かされ栄養源とされいくのです。まさしく緑トラップというわけです。
お次はサラセニアの仲間。
こちらは、北アメリカ原産でツツジ目サラセニア科の食虫植物となっています。その捕虫器はウツボノカズラとよく似ており、内部に消化液があります。この液体はウツボコカズラとは違い消化酵素はそれほど含まれず、中に落ちた昆虫はバクテリアの力で分解されて、栄養源となります。
ウツボコカズラとサラセニア。似たような形ですが、分類も違えば消化方法も違い、さらには原産地も違います。
植物がいかに多種多様に進化していったのか、そんなことが伺い知れる展示となっていました。
温室の最後は〝オ〟が3つのあの浮草。
――と、言うわけで、最後にエレベーターで2階へと向かい……
そして出口付近へと向かうために階段を下りると、今度は大きな浮草たちがズラリと出迎えてくれました。
オオオニバスです。
はい、みなさんも一緒に声を出して~
オオオニバス!!
名を口に出すと、何とも愉快な〝響き〟を持つ浮草です。
ここで、下の写真のオオオニバスと右に設置されているベンチ、その大きさを比べてみて下さい。
大人の両手を広げるほどの直径を有していることが、お分かりいただけるかと思います。
スイレン科オオオニバス属の水生植物であるこの植物、何と言っても最大の特徴は、直径2mになる大きな葉!
その裏側はと言いますと……
まるで蜘蛛の巣のように葉脈が、縦横無尽に張り巡らされています。この浮草が持つ太い葉脈とスポンジ状の構造から生まれるその浮力は……
幼児ならば、乗ることができるほどです。
現に、牧野植物園では「オオオニバスにのろう」という企画を定期的に開催しています。イベント時限定ですが、15kg以下のお子様ならこの葉の上に乗ることができようです。
幼稚園・保育園に入る前の最後の思い出作りにいかがでしょうか?
一度は高知県立牧野植物園へ
と、言うわけで、温室から出てきました。
3時間ほどじっくり楽しんだ牧野植物園ですが、いよいよ離れるときがやってきました。
幸い、いままで見学した温室は南門近く。
そこには竹林寺前バス停があり、いちいち正門に戻るよりも歩かずにバスに乗って駅へ戻れます。
かく言うわたしは、スタンプラリーをコンプリート。その台紙を見せて景品をもらうため、歩いてきた道のりをトンボ返り。本館へと向かいます。
そして手にしたのは……
生誕160周年記念のクロッキー帳。おもて表紙を飾る繊細なタッチのボタニカルアートが可愛らしくもありますが、そのうら表紙は……
博士の満面の微笑。
どんなに歳をとっても、どんなに偉くなっても、笑顔が素敵な人には、いっぱいの魅力が詰まっていますね。
最後に本館でお土産を少しばかり購入して……
正門から植物園を後にすることに。
さて、牧野植物園を訪れて改めて感じたことは、「植物は立体だ!」ということです。
植物に関する趣味を嗜んでいると、写真と植物の名前、さらには名前と特徴が一致しないということが多々起きます。文字や写真。平面とにらめっこしていても、なかなか入ってきません。そこには、感動がないからです。
しかし、ぐるりと見渡しつぶさに観察すれば、植物の不思議に衝撃を受け、驚くほどに映像が海馬に吸い込まれていきます。
あの時、一度は牧野植物園へと言われた理由はコレだったのか!
と、バスの窓から入ってくる暖かい南国の風に包まれつつ、ただただ感服するのでした。
植物が好きなら、一度は高知県立牧野植物園へ! わたしとしても是非お勧めしたいと思います。
というわけで、今回の話はここまで。
長文読んでいただき、ありがとうございました。
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