ソイルのイオン交換について
今回は、ソイルが水を軟水にする理由について。
ほぼ化学の話であり、突き詰めていくと奥が深いことですので、要点だけを述べていきたいと思います。それでも、少しばかり難しい内容となっていますので、好奇心のある方向けとなっております。なお、今回も削除した過去から使えそうなパートを修正したものとなっております。悪しからず。
土壌コロイドのイオン交換優先順位
まず、ソイルを含む土壌は、粘土鉱物と腐植が結合した土壌コロイドからできています。これは負の電荷を有しているため、陽イオンを吸着します。その際には優先順位があり、以下の通りとなっています。
H⁺>Ca²⁺>Mg²⁺>K⁺>=NH₄⁺>Na⁺
これは、もし植物の肥料となるカリウムイオン(K⁺)やアンモニウムイオン(NH₄⁺)を持っていても、硬度の元となるマグネシウムイオン(Mg²⁺)やカルシウムイオン(Ca²⁺)が来れば、前者を手放し後者を吸着するということを意味しています。さらに言えば、酸性下(H⁺が多い状態)ではそれら全てを手放してしまい、代わりに使い道のない水素イオン(H⁺)を手に取ることになります。しかし、H⁺は養分ではありません。そのため、こればかり持っていては、土壌として、いえソイルとして機能不全だと言えるかもしれません。
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(ソイルが水槽で起こす作用は多岐にわたる) |
土壌コロイドに吸着された養分とその吸収
ソイルが肥料の保持をする
それでは、土壌コロイドに吸着された肥料分はどのように植物に取り込まれるのでしょうか?
実はこの話は、農業や園芸でよく話題に上がるものです。産業や時によっては人命に直結する大切な植物ですから、アクアリウムよりも理解が深まっている部分があると言えるでしょう。とはいえ、水草とて同じであり、同様の現象が起きているはずです。
まず、三大要素であるアンモニウム態窒素やカリウムなど、さらに多量要素であるマグネシウムやカルシウムなど、肥料と言われるほとんどは、水に溶ければ陽イオンになります。しかし、これらは、ただ水の中を漂っているだけでは、自然界では雨水で、水槽内では換水で流出してしまいます。が、もし、土壌コロイドやソイルに吸着されれば話は変わってきます。土壌が肥料を保持してくれるからです。
このようになって初めて、植物は安定的に生長できるのです。
植物が肥料を吸収する仕組み
植物たちは、土からうまくイオン交換の仕組みを使い養分を取り出すことができます。
冒頭紹介した優先順位を思い出してみてください。一番左側にH⁺がありましたよね? これを利用するのです。まず、根からH⁺が遊離されます。順位で1位ですから、土は持っている養分を手放してこれを吸着します。まんまと手放された養分は、無事植物に取り込まれ、生命活動で活用されていくことになります。これこそ、土壌に存在する養分を根が吸収するメカニズムですが、事を起こしやすくするため、人工的にあらかじめ肥料分を吸着させたものがあります。それが、栄養系ソイルです。
なお、水草の中には、根以外にも葉から栄養を吸収できるものもありますし、水耕栽培のように水から陽イオンを直接吸収できるタイプのものもあります。しかし、多かれ少なかれ、このような養分吸収により生長していくものと思われます。
硬度を下げる働き
ソイルのもう1つの働き
植物の養分吸収に重要な役割をする土壌コロイドですが、ことソイルとなれば水槽内でも、別の大きな働きをします。軟水化です。
さて、今さらですがソイルには「栄養系」と「吸着系」の2種類があると言われています。前者については先ほど述べた通りですので、ここでは後者について説明していきます。吸着系ソイルとは、陽イオンが吸着されていない状態のもの、もしくはイオン交換の優先順位が低い物があらかじめ吸着されているものです。
吸着で起きる水槽内の出来事
そのようなものが水槽の中に入ると、何が起きるのでしょうか?
今まで説明してきた通り、イオン交換が起き、水質が大きく変わります。まず、硬度の元ともいえるCa²⁺、Mg²⁺が吸着されれば軟水化が起き、水は弱酸性となるでしょう。これは水草に大変好まれる水質です。なぜなら、CO₂が植物に吸収されやすい状態になりやすいからです。結果的に、光合成の化学反応を促進させることになるのです。
このように、吸収に光合成とさまざまなことを水槽内で起こしてくれるソイルですが、実は話はこれだけでは終わりません。水槽のスタートアップ時にも役立つ可能性があるからです。というのも、この弱酸性とソイルという組み合わせが、魚に有毒なアンモニア(NH₃)を無害なアンモニウムイオン(NH₄⁺)に変化させ、さらに、ソイルに吸着するという芸当を成し遂げてくれるかもしれません。うまく利用すれば、立ち上げ初期のアンモニア地獄が発生しないというミラクルが生まれることも……なきにしもあらず。
とにもかくにも、農業に園芸、そしてアクアリウム。土の中、鉢の中、水の中と、違いこそありますが、同じ植物を扱う趣味や産業です。であるならば、他分野の話を積極的に利用し、日々の水草アクアリウムに生かしたいものです。
というわけで、今回はここまで。
長文読んでいただきありがとうございました。
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