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2024年11月3日日曜日

腐海に沈むバコパとヘアーグラス:水草アクアリストの役割とは何か?

今回も水草失敗談

今回は、水草初心者のころにわたしが起こした2連続の大失敗について、読み物風に綴っていきたいと思います。

なお、記事に登場するすべての物品は、自費で購入したものです。
また、そのすべてが20年という月日の中で販売を終えていたり、大きな変更が加えられているものばかりです。現在の商品知識で読み進めると、違和感を感じるかもしれません。悪しからず。



アクアリストの役割とは

当時のわたしは、水草栽培の道具の扱い方を知りませんでした。メーカーの宣伝やネット上の書き込みなど、理想と現実を区別するリテラシーが弱かったということもありますが、大きな問題は別にあります。ライトやソイル、さらにはCO2や肥料など各種器具を歯車のようにきれいに噛み合わせ、栽培を促進させる知見を持っていなかったのです。

もちろん、どれもアクアメーカーから自信を持って送り出された商品であり、そのまま使っても何ら問題はないと思いたいところです。しかし、何事にも適材適所という言葉があり、これは裏を返せば秀でている部分もあれば劣っている部分も必ずあることを示唆しています。これらの凸凹を美しく組み合わせてハーモニーを作り出すことこそ、アクアリストが行うべき仕事です。

とはいえ、現実を顧みず好みの道具ばかりを使いたいのは趣味人の願望の1つでもあります。しかし、物欲にまみれていると歪みが直接水槽に現れることもあるのです。



20年前の失敗

あのiPodのAppleが携帯電話を開発しているらしい。友人との噂話を思い出しつつ、駅ビルの書店へと向かっていた。IT化が進んだ世の中とはいえ、明らかに情報の量が足りないと思い至り、アクアリウムの雑誌を漁るようになったのはいつからだろうか。中身はメーカーによる色のついた文言ばかりのようにも思えたが、数少ない最新の情報にあふれており、読まずにはいられなくなってしまった。
もちろん、雑誌はマーケティングの舞台でもあることは知っている。しかし、質より量を重視せざるを得ないほど、他の愛好家の見聞が耳に入ってこない。これではわたしのような初心者は困るのだ。
別に持っていた趣味よりもノウハウの流通量の少なさに嘆きつつ、雑誌の冒頭を飛ばし見していると、大好きなエーハイムのある広告が目に飛び込む。

(この記事の話は、20年前のものです)

あれから1週間後、仕事終わりに遠路はるばる大都市にある店までやってきた。あの雑誌でエーハイムから30cmキューブハイタイプと3灯式ライトのセット品が発売されるのを知ったからだ。店舗の玄関には山のように積まれた水槽を1つ手にし、軽い足取りでレジへ向かえば、同世代の店員がにっこりとほほ笑む。アクア談義に花を咲かせつつ、配送の手配を終わらせると、帰りの電車までまだまだ時間があるのに気が付いた。

何を栽培するかなんて、あとで考えればいいのだ。
店内を巡るのだが、なんだかソワソワした気持ちが収まらない。不思議なぐらい自信があることを自覚する。おそらく稲や穀物、草花や観葉植物と同じように、如何様にもできるだろうと楽観的に思えるのは、きっと高校・大学と生物学や農学を学んだことに裏打ちされた経験から来ているのだろう。
高ぶる胸を落ち着かせるようにコホンと咳払いをして、1つ1つの商品をつぶさに見ていると、思わずため息が出る。わたしの街の店にはない豊かな品ぞろえだからだ。さらに歩き続け、底床コーナーに入ると不意に黒い土のようなものが積まれているのが目に入った。大きな袋を上から覗き込んでみると、なるほど「アマゾニア」と書かれているようだ。どうやら、「ソイル」という底砂の1種で水草栽培には必要なものらしい。これはいいものを見つけたと小言を言いつつ早速カゴの中へ入れ、その足で裏側の機器売り場へと向かえば、今度は展示水槽で発酵式CO2キットが紹介されているのを見つけた。どうやら、今日ですべての道具がそろいそうだ。

緑豊かなアクアリウムを思い描いて、行きつけのショップで購入したバコバを植え付けたのは、それから数日たった秋の深まるとある夜のことだった。

(当時と同じ添加機器)

しかし、夢はわずか2週間で崩れ落ち、根拠のない自信は打ち砕かれる。

水草の育つソイルとして有名なアマゾニアに、エーハイムの蛍光灯、そして発酵式CO2添加装置。必要とされる道具はそろえたはずなのに、1週間たっても肝心のバコパの成長が見られないのだ。このままではやがて、コケに覆われてしまうだろう。うんともすんとも言わない水草を見て危機感を覚えるのだが、初心者のわたしにできることは器具が正しく動いているかチェックするぐらい。これで右往左往することしかできないのだ。

だが1週間後、無駄なことはするなと言わんばかりに、水槽のすべてが茶色に染まる。
根も生えず、葉もしなれ、ソイルから抜けたバコパの小さな葉を手に取ると、ぬるりとした嫌な感触がある。しかし、いくらイメージを膨らませてみても、どのようなことが起きたのか分析してみても、何が失敗なのかがまるでわからない。
そもそも、植物に必要なものは水、日光、温度であり、それらは水槽内では器具のおかげもあってふんだんにあるはずだ。となれば、怪しいのはそれ以外の部分、二酸化炭素や肥料が不足しているからだ。とはいえ、ソイルも添加器具も正しく設置したはずだ。ならば道具そのものに問題があるのか? 間違った結論に行き着くのは幾ばくもかからなかった。

急いで発酵式を撤去し、小型ボンベを注文。ライトを高光量のクリップ式に変更し、肥料としてイニシャルスティックも投入した。さらに、ダメ押しとばかりに、茶コケの原因は水質不安定と判断し、エーハイム2211を導入した。散財こそしたが、これで栽培がうまくいくのなら安いものだ。

次なる水草として招待したのはヘアーグラス。果たして結果は?

(ヘアーグラスの前で餌に群がるチェリーバルブ)


過去の失敗は必ず血肉となる

これは、何だ?

ピンとまっすぐに伸びた穂先に実る黒い房。ネットで調べると、どうやら黒ひげ苔というものらしい。プレコばかりで茶苔ばかり見てきたわたしには、初めは変わった苔にしか思えなかった。
だが、それは猛威を振るい、水槽の覇者となる。倍々ゲームで増えていき、2週間もしないうちに緑の水底を黒へと塗りつぶしていったのだ。

当のわたしはというと、ここに至ってもいったい何が失敗だったのか皆目見当が付かずにいた。ソイル、CO2添加、高光量のライトに肥料。そして、二酸化炭素をキープしつつも安定したろ過のできる外部フィルター。どれをとっても水草栽培にはキーアイテムのはずであるし、すべて名の通ったメーカーのものを集めた。これらが眼前の結果をもたらしているなんて、到底信じられなかったのだ。
少なくとも、今まで経験したプレコ水槽では器具を設置すれば必ずと言っていいほど良い方向に変化があり、道具が充実するほどに豊かなアクアライフを送れるようになってきたはずだ。だが、腐海へと堕ちた水草水槽を前にして、それが誤りであると自覚せざるを得なかったのだ。
道具に頼ったアクアリウムは、完全に行き詰まってしまったのだ。

(紆余曲折、水草水槽をしているが……)

それから20年以上経過し、大小さまざまな失敗を経て、当時の何が原因だったのかはっきりと分かるようになりました。水草栽培におけるコケ対策の重要な要素は、光、二酸化炭素、肥料だと考えています。どれかが多すぎれば水草ではなくコケが育つようになり、少なければ水草そのものが育たないからです。つまり、3つの要素のバランスが大切だということです。

これは言い換えれば、足し算ばかりでなく引き算も必要だということです。

今回紹介した二度にわたる栽培体験に共通している失敗点は、たしかに光量と肥料が多すぎたこともありますが、それ以上の問題は多岐にわたる要素をコントロール下に置けなかったことです。当時、光量や肥料は増やしたものの、減らすという行為ができませんでした。これは、道具を追加し正しく使うことこそすれど、それが現実に則した量や濃度なのかと、一切疑問に浮かんでこなかったことに起因します。これではダメですよね? 
この残念な経験は、道具を増やし性能を上げればうまくいくという成功経験の弊害であり、水槽の中の現実を顧みなかった末に起きたことだったと言えるのかもしれません。

とにもかくにも、アクアリウム、とりわけ水草水槽において、光のオンオフや、水の軟水化、CO2の添加、栄養分や硬度の調整は、ほとんどが道具により自動的に動いてくれます。であれば、人間がやることはただ1つ、よりよく植物が育つように各々をコントロールすることです。1つ1つの歯車を正しく噛み合わせてあげれば、必ずや水草が今よりも良い姿を見せてくるはずです。



あとがき

結局、そのときのわたしは、それっきり水草水槽を諦めてしまい、10年以上のブランクを作ることになります。もしあの時、蛍光灯の本数を減らせたのなら、もし栄養系ではなく吸着系のソイルを利用したのなら、もし二酸化炭素の濃度を減らせたのなら、考えれば暇がありません。しかし、そこから得た良質な失敗と豊かな経験に勝るものはありません。あの時の失敗も……

(ライトスタンドを利用して減光中)

こうやって今の水槽で生かされています。

というわけで、今回はここまで。

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